「POS」は「Point Of Sales(販売時点情報管理)」の略で、店舗の商品や販売状況などを管理するためのシステムです。スーパーマーケットやコンビニエンスストアのカウンターなどでよく見かける端末がそれです。そのため、多くの人が身近な存在として認識しているかもしれません。
しかし、POSは単なる会計ツールではなく、現代の高度なITシステムの一部です。その進化について、歴史から最新の動向までを紹介します。
目次
POSシステムとは?
POSシステムの原点は、「キャッシュレジスター(金銭登録機)」とされています。これは、商品の値段を計算・記録する機械と、現金をしまっておくための小さな金庫が一体化したものです。
このシステムは徐々に進化し、複数のレジや複数店舗のレジを一元管理できるようになりました。こうしたシステム全体を「POSシステム」と呼びます。そして、カウンターごとに設置される端末は「POSレジ」と呼ばれます。
最近のPOSシステムは、決済や販売状況の記録だけでなく、様々な機能を備えています。例えば、商品情報の登録や在庫管理、バックヤードでは従業員の勤怠管理にも利用されています。商品の売れ行きなどがデジタル化され、データとして活用されることも一般的です。そして、このデータを分析して、仕入れ量の調整や次期商品の開発などが行われています。
POSシステムの歴史
「レジ」と呼ばれる機器は、最初は単純な機能しか持っていませんでした。では、どのようにしてその機器がシステム化し、「POSシステム」に進化していったのでしょうか。その進化と発展の歴史を紹介します。
スーパーマーケットにおけるレジのシステム化
レジのシステム化の歴史を探ると、戦後の復興期まで遡る必要があります。その頃、日本の大量消費時代を支えたのはスーパーマーケットでした。初期のレジは、店舗全体の売上を管理するだけのシンプルなものでした。
後に、部門別の会計機能を備えたレジが登場しました。これにより、「鮮魚」や「精肉」、「青果」などの部門ごとに売上データを集計できるようになりました。この発展により、販売予測が可能になり、売り場面積の調整などに役立ちました。
さらに、コンピュータとの連携も始まりました。ただし、当時はまだネットワーク化は進んでおらず、データの移動には紙テープに穴を開ける「パンチテープ」が使われていました。レジでパンチテープを作成し、それをコンピュータに読み込ませる方式でした。この方法は原始的でしたが、現代のPOSシステムへとつながる第一歩でした。
コンビニエンスストアの急成長とPOSシステムの標準化
コンビニエンスストアの台頭に伴い、POSシステムの普及が進みました。その中で重要な役割を果たしたのが、JANコード(共通商品コード)の導入です。このバーコードをスキャンすることで商品情報が即座にコンピュータに入力され、会計業務の効率化が図られました。
さらに、オンライン化の進展により、売上データが本部に送られて集計・分析されるようになりました。JANコードによって商品ごとの売れ行きを簡単に把握できるようになり、それが仕入れの最適化や新商品開発に役立ちました。
さらなる進化として、WindowsやLinuxを搭載したPOSレジが登場しました。これにより、従来の独自仕様からパソコンをベースにした機器へと変化し、技術のオープン化が進みました。結果として、周辺機器との互換性が向上し、サードパーティが参入しやすくなりました。
インターネットの普及とECの発展
インターネットの高速化が進み、ブロードバンドの時代になると、各店舗が本部のサーバーと常時接続できるようになりました。この変化に伴い、POSレジは軽量なターミナル(端末)へと進化しました。
さらに、インターネットの普及は、消費者の購買行動にも変化をもたらしました。WebサイトやSNSが身近な存在となり、気になる商品の情報をあらかじめ入手できるようになりました。そのため、商品を購入する前にユーザーレビューやクチコミのコメントを参考にする人が増えました。
こうした流れの中で発展したのがECサイトです。クレジットカードによるオンライン決済で、店舗の立地や営業時間に左右されずに商品を購入できる点などが注目されました。ECサイトの台頭に伴い、「ショールーミング」という行動も見られるようになりました。これは、情報収集の一環として、商品の実物を手に取って確認するためだけに実店舗を訪れる消費者が増加したことを指します。
事業者にとっては、「オムニチャネル」の時代に突入したと言えます。オンラインとオフラインのあらゆるチャネルを駆使し、実店舗とECサイトを組み合わせた戦略が求められています。
POSシステムの動向
POSシステムの将来展望を見据えると、どのような進化が期待されるでしょうか。以下では、POSシステムの最新動向について簡単に紹介します。
キャッシュレス決済が普及する
最新のPOSシステムは、各種電子マネーやQRコード決済などのキャッシュレス決済に対応しています。これらの新しい決済方法が主流になると、買い物の便利さが向上するだけでなく、釣銭の間違いなどのミスも減るでしょう。また、会計時に現金に触れる必要がないため、衛生的な面でもメリットがあります。
歴史を振り返ると、POSシステムは現金を扱う「キャッシュレジスター」から始まりました。キャッシュレス決済の普及とともに、「レジ」の役割も変化していくことがわかります。
クラウド化が進む
現在、業務用ツールからエンターテインメントまで、多岐にわたるサービスがクラウド上で提供されています。POSシステムもこの流れに沿って変化しており、クラウド化されたPOSシステムでは、レジの数や店舗の規模に関係なく、売上や在庫などのデータをリアルタイムで一元管理することができます。
さらに、クラウドの特長として、POSレジをコンパクトにできることが挙げられます。対応するアプリをインストールするだけで、タブレットやスマートフォンがレジの機能を担うことができます。従来のPOSシステムで必要とされていた専用のハードウェアが不要なため、初期コストを抑えつつ、小規模店舗でも簡単に導入できる利点があります。
ECと統合される
POSデータとECを連携するサービスが既に登場しています。クラウド化の傾向とオムニチャネルへの需要を考えると、このような機能統合は当然の流れと言えるでしょう。
特に重要なのは、在庫の統合管理です。具体的には、POSシステムが各ECモールでの売上を追跡し、在庫データを自動的に調整することで、実店舗との間での欠品を防ぐことができます。
店舗アプリと連携される
店舗が専用アプリを会員に提供する取り組みが増えています。プラスチックの会員カードを発行するよりも費用を節約でき、利用者にはポイントやクーポンでの割引、さらにはセール情報などを提供できます。
通常、このようなアプリは会計時に提示されるため、POSシステムとの連携が合理的です。これにより、店舗はより多くのデータを収集できます。たとえば、売れ筋商品がどの顧客層に受け入れられているかを分析し、売上や顧客満足度の向上に役立てることができます。
セルフサービスが広がる
飲食店のテーブルごとに注文用の端末を置く「セルフオーダー」は、利用者が好きなタイミングで注文できるようにする方法です。フロア業務の一部を無人化するとともに、伝達ミスも防げます。また、POSシステムと連携するため、会計もスムーズです。
コンビニエンスストアなどでは、会計を無人化する「セルフレジ」も実験的に取り入れられはじめました。このような、POSシステムを応用したセルフサービスが広まれば、いずれ完全に無人の店舗が浸透する日も来るかもしれません。
POSシステムの仕組みはITとともに進化を続けている
POSシステムは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの成長と共に進化してきた重要な仕組みです。その発展には、常にITの進歩やデータ活用ニーズが背景にあります。ECが勢力を増す現在でも、POSシステムは進化し続けています。従来の「レジ」の姿から変わるかもしれませんが、今後も様々な技術を取り入れながら存続していくでしょう。